こんばんは。
弁護士の宮本です。
2017年初めのエントリになります。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
さて,私の数少ない趣味の一つに山歩きがあるのですが,昨年11月29日に,山岳救助に関する最高裁の決定が出ていましたので,少しご紹介をしておきます。
この決定は上告棄却で,高裁の判決が確定してます。そして,高裁では,山岳救助に当たった北海道警察の過失を認めた上で,約1800万円の損害賠償を認めています。
無論,山を歩いたことがある方はお分かりになると思うのですが,基本,登山は自己責任で行うものであり,遭難した場合に救助隊の責任が認められることは殆どないのだと思います。
そうすると,この決定(もしくは損害賠償を認容した高裁判決)は,これからの山岳救助のあり方に一石を投じるようなものなのでしょうか。
気になって地裁判決を確認したのですが,少し事件の性質というものが見えてくるような気がします。
事故自体は,平成21年1月31日から2月1日にかけて,北海道の積丹岳で起こりました。
スノーボードのため仲間と山に入ったAさんが,悪天候のため山頂でビバークし,救助要請を行います。その後,北海道警察がAさんを発見し,ストレッチャーに乗せて下山させようとしますが,雪庇を踏み抜いたり,ストレッチャーが崖下に落ちてしまったり,と幾つかの事故が重なって,結果的に,Aさんを救助することはできなかった事故です。
地裁では,概ね次のような判断がされています。
1 救助隊は事故の二日前に当該山で訓練を行っていて,山頂付近には雪庇が有り,雪庇ができている場所は崖であることが分かっていながら,細心の注意を払って雪庇部分を避けるようなルート選択をしなかった
2 Aさんが発見されたときには,カフェオレを飲むことができるなど,自力で足を動かせる程度の体力は残っていた。
3 滑落後,Aさんの容態は悪化しており,凍傷や低体温症が進行していた。
1について,地裁は国家賠償法上違法であるとした上で,2,3からすると,きちんとした救助を行っていれば,Aさんを救助することができたとして,請求を認めています。
もっとも,単独で山頂まで登山を敢行しビバークに適さない山頂でビバークをしたことは,事故を誘発したものでして,8割の過失相殺を認めています。
このように地裁は北海道警察の責任を認めていますが,本件では,まず,一度は北海道警察がAさんを発見し,保護していると言う事情があります。
また,その後,直近で訓練をし,特性についてもわかっているはずであろう雪庇部分を避けることなく(実際には避けているのでしょうが,十分に注意を払っていないままに,と言う意味です)進行し,結果,雪庇を踏み抜いてしまっています。
確かに山岳救助を行う方は,自らも危険に晒しながら業務を行っているのであって,それ自体はものすごく素晴らしいことなのだと思います。
だからこそ,救助にはきちんとした対策を取られるべきなのであり,本件では,残念ながらその対策が欠けていた,ということなのでしょう。
ですので,この判断は,山岳救助全体に波及するものではなく,あくまでもレアケースと見るのが妥当な気がしています。
無雪期登山でも息が上がっている自分も,肝に銘じておかなければなりませんね。
それではまた。
宮本