こんにちは。弁護士の宮本です。
さて,今日は昨日からお話してました「嫡出推定」に関する最高裁判決の中身に立ち入っていきたいと思います。
今回の訴訟は,「親子関係不存在確認訴訟」というものです。これは,いつでも,だれでも,「夫の子どもではない!」と言える訴訟の類型ですね。
本来の手続である「嫡出否認の訴え」ではないところがポイントです。これは,「夫」が,「子どもが生まれたことを知ってから1年以内」に起こす必要がありました。
今回は,結婚期間中にお子さんが産まれたけど,妻はその当時別の方(Aさん,としましょうか。)とお付き合いしており,その後,Aさんと暮らしている,という事件でした(これは②事件ですが。)。その上で,DNA鑑定をしたところ,Aさんとお子さんが親子である確率は99.999998%だという鑑定結果もでました。このくらいの確率であれば,「コーラを飲んだらゲップが出るっていうくらい確実」と言えますよね。
そこで,夫とお子さんの親子関係がないことは科学的に明らかなのだから,「嫡出否認の訴え」ではなく,「親子関係不存在確認訴訟」を起こしていいんじゃないか,と主張したのです。
これに対する最高裁の答えは,「No」でした。
理由の部分を以下に引用します(これも②事件です。)
「夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,夫と妻が既に離婚して別居し,子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても,子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから,上記の事情が存在するからといって,同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず,親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である。」
これで一文です。長いですね。
どういうことを言っているのかというと,科学的にお子さんが夫の子どもではない!と言える状況でも,お子さんの身分を早めに確定させるという必要はあるのだから,後々から覆されてはいけない,ということです。
なので,1年以内に起こす必要のある「嫡出否認の訴え」をしない以上は,いつでもだれでも言える「親子関係不存在確認」はできませんよ,ということです。
そして,これは,妻とAさんがお子さんを育てていても,変わりないとされました。
ここからは簡単に感想を。
今回の判決は,5人の裁判官でも結論が3対2に別れたとおり,非常に難しい判断だったと思います。
確かに,99%以上の確率でお子さんが誰の子どもであるかがわかっている場合にも,夫の子どもとして登録されていることは不合理な気もします。
そして,DNA検査で判明した場合と,昭和44年の判例の事案では,お子さんがAさんのお子さんであることを確認する必要性について同じではないのか,とも言えると思います。
しかし,法律に無い用件を加えるときには,慎重な判断をしなければなりません。
例えば,今回はDNA鑑定が問題になりましたが,夫がEDだった場合はどうでしょうか。
この時も,「夫の子どもではない!」といえるかもしれませんが,どの場合が良くて,どの場合がダメかは判断がつきにくいですよね。
ですので,本来,このような場合にはこうしよう,ということは法律に書いておかなければいけません。
判決でも補足意見で「立法政策の問題として検討されるべき」としています。
なので,今回は法律に書いてない以上ダメだよ,と言っているので,当たり前といえば当たり前の判断です。
少し難しい話になってしまいました。少しでも中身がわかっていただければ幸いです。
今後,この嫡出推定をどうするかは,大きな問題になっていくでしょうから,注意してみておくと良いかもしれません。
それではまた。
宮本