こんばんは。弁護士の宮本です。
さて,今日も法律家らしく,一昨日に出た判例についてご紹介致します。
判例は,「最三小判平成26年7月29日」,事件番号は「平24(行ヒ)267号」です。
少しこの表記を解説してみましょう。
まず,前者です。
「最」はもちろん最高裁のことですね。
「三小」は小学校の名前ではなく,第三小法廷のことです。
「判」は判決であることを示します。
次の日付は,判決が出た日のことです。
つまり,「最三小判平成26年7月29日」とは,最高裁の第三小法廷で,平成26年7月29日にあった判決,と言う意味になります。
次に,後者のほうです。
「平24」は,平成24年に係属(つまり上告された)した事件と言う意味です。
次に,「行ヒ」とは,事件記録符号といって,この事件が何なのかを表しています。「行ヒ」は上告受理事件ですね。
最後に「267号」とは,平成24年における267番目の事件という事を指しています。
意外といろいろな情報がつめ込まれていますね。
さて,本体の事件です。
これは,「許可処分無効確認及び許可取消義務付け・更新許可取消請求事件」という長い名前の事件なのですが,要は,産業廃棄物の最終処分場が稼働して良い,という許可について,周辺住民が「待った」をかけた事件とお考えいただければ,そう遠くないと思います。
つまり,ある業者は,産業廃棄物の最終処分場を造り,そこで工場を稼働させようとした。稼働には県の許可が必要なので,許可を受けて事業を開始しようとした。
ところが,周辺住民は大反対。稼働したら,有害物質が辺りに放出されてしまったり,汚染水が外に流れ出てしまうかもしれません。
そこで,業者に与えた許可は無効だ,取り消してくれ,というのがこの訴訟の本質です。
この訴訟で何が問題なのか,というと,「許可を受ける相手方ではない,周辺住民が,業者への許可を争えるか。」ということです。
このことを,法律上では「原告適格」と言います。
これは産業廃棄物の処理上だけに限った問題ではなく,例えば原子炉の建設や,ギャンブル施設の建設などでもたびたび問題になってきました。
この「原告適格」について,法律上は「当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」が提起できますよ,と定めています。これは行政事件訴訟法と言う法律の9条1項ですね。
そして,法律上の利益があるかどうかを判断するときには,「当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮」しなさいね,としています。
ただ,こう書かれていても初めは全くわかりませんよね。
では,本件に当てはめて考えてみます。
今回は,産業廃棄物の最終処分場の許可が問題になっていました。
産業廃棄物の最終処分場を作っていいよ,という時には,廃棄物処理法やそれを受けた省令で,工場から有害な物質の流出や浸出等を防止するための設備を設けたり,必要な措置を講じなさい,としています。
そうすると,廃棄物処理法やその関連する法令は,有害物質をまき散らさないように,と言う配慮をしてますので,周辺地域の生活環境を守ろう,としていそうですよね。
つまり,廃棄物処理法やその関連する法令は,周辺地域の生活環境を守っていると言えそうです。
そして,汚染物質や汚染水が周辺に撒き散らされてしまえば,周辺住民の健康を害したり,さらには生活環境を一変させかねません。
そうすると,少なくとも汚染物質などで直接の影響を受ける地域に済んでいる住民は,法律で業者に要件を課すことで,守られている,と言えます。このことを「法律上の利益」があるといいます。
少し難しい話で大変恐縮でした。結論としてこの訴訟では,環境影響調査報告書において調査の対象とされた地域(工場から半径1.8キロメートル)に住んでいる人には原告適格が認められました。ただ,お一人はその中に住んでいなかったようで,原告適格が認められていませんでした。
なかなか馴染みがない訴訟ですので,一般受けはしないかもしれませんね。司法試験受験生は飛びつきそうですが。
それでは長文のお付き合いありがとうございました。
宮本