こんばんわ。
弁護士の宮本です。
さて,今日も判例紹介です。
今日は最一小判平成28年6月28日【平26(受)1813号 ・ 平26(受)1814号】です。
債務整理を依頼された認定司法書士が、裁判外の和解について代理することができない場合についての判断です。
最高裁の判例要旨に,「…た事例」との記載がある場合があるのですが,この場合は原則事例判断,つまり,「本件のような事情のもとではこうですよ」という判断に過ぎません。
同じ事案であっても,事情が異なれば違う判断になることも十分に予想されます。昨日ご紹介した判例はまさに事例判断で,このような事情のもとでは,飲み会帰りの事故は労災だ,と言ってますね。
さてさて,そこで今回の判例を見てみると,「…できない場合」と言う要旨になってます。
つまり事例判断ではなく,認定司法書士が裁判外の和解ができないのはこういう時です,と見解を出したことになります。
それでは詳しく見てみます。
司法書士のうち,一定の研修と試験を受けた方は,法務大臣の認定を受け(認定司法書士),簡易裁判所における代理を行うことができます。
ちなみにこの研修は私の地元でやってました。今もやっているのでしょうか。
簡易裁判所は訴額140万円以下の事件を扱うものですので,認定司法書士が代理人として扱えるのも,140万円以下の事件,ということになりますね。
それでは,この「140万円以下」の事件とはどういうものを指すのでしょうか。
認定司法書士が数多く手掛ける事件の一つに「債務整理」やそれに伴う「過払金返還請求事件」があります。
利息制限法の制限利率を超える利率で取引をしていた場合で,利息制限法の制限利率で引き直すと,払い過ぎた利息の返還を求めることができる,というものです。
このような過払金返還請求の場合,事件に着手した時は高い利率で計算していますので,金融会社Aには債務が残っている(例えば100万円)事があります。
Aとの取引を制限利率に引き直して計算すると,債務はなくなり,反対に140万円の過払い金が発生していたとしましょう。
そうすると,依頼者が得る経済的利益,というのはいくらになるのでしょうか。
①単に過払い金140万円を請求するだけですから,140万円でしょうか。
それとも,②-100万円から+140万円になりましたから,240万円でしょうか。
また,Aだけではなく,別の金融会社Bとも同じ状況だったとして,経済的利益は③合算して280万円になるのでしょうか,④480万円になるのでしょうか。
最高裁は,これを「当該債務整理の対象となる個別の債権の価額」によって決めるべき,としました。つまり①です。
ただ 裏を返せば,1000万円の債務が有り,交渉して900万円の返済ですみました(=経済的利益は1000-900万円で100万円)とは言えないということになりますね。
この問題は弁護士と司法書士の職域にも関わる問題で,以前からかなり議論になっていたのですが,最高裁として一定の判断を示した結果になります。
私はむしろこの後起こりうることの方がえげつないのではないか,とも思っているのですが,またそれは別の機会にお話することにしたいと思います。
それでは。